『獣神ライガー』はガンダムとは正反対の「勧善懲悪」路線の物語
アニメ演出家・監督の鹿島典夫のラジオ日本・清野茂樹の『真夜中のハーリー&レイス』への出演回。
前回はアニメ『獣神ライガー』誕生の舞台裏を中心に。後半はサンライズやプロレスラー「獣神ライガー」デビュー計画の舞台裏を語った部分を中心に紹介します。
【清野茂樹】サンライズって金曜日の夕方の時間帯、僕も観ていたんですよ。『ガンダム』(機動戦士ガンダム)とかのやっていた枠で『ザブングル』(戦闘メカ ザブングル)とかね、ああいうの観ていましたけど、結構ガンダムがそうでしたけど、勧善懲悪とは違う世界のアニメやってましたよね。
【鹿島典夫】要するにサンライズってふた通りの路線があったんですよ。勧善懲悪『ボルテス』(超電磁マシーン ボルテスV)とか『闘将ダイモス』とか、そうした流れのもの「正義が勝つ」だけの、正義と敵というものがはっきりと色付けされた作品。あくまでも正義の目線からみて作った作品。そこにガンダムって当時としては革命的な作品が作られたんですね。
『ガンダム』は映画『地上最大の作戦』がヒント?
【鹿島典夫】それは富野(富野由悠季)さんが進めたんですけど、要するに戦争映画でいえば、いわゆる『地上最大の作戦』(1962年)という当時映画ができたんですけど、太平洋戦争をヨーロッパ戦線でドイツ側、フランス側、イタリア側、アメリカ側それぞれの国の立場での戦争のし方、作戦の立て方。それぞれが自分たちが正義であり、自分の国の戦いをしているという縮図の戦争のし方というのを持ち込んだのが『ガンダム』だと思うんですね。
【清野茂樹】そうですよね。戦争ってみんな自分た正しいと思ってやっていますからね。勧善懲悪ってのは無いんですね。
【鹿島典夫】俯瞰から戦争というものを見ていって、いわゆる「敵には敵の言い分があって正義がある、こちら側にはこちら側の言い分があって」みたいなところをぶつけ合って進めていき、それの一番最初にメカモノということで、風穴を開けたのが『ガンダム』だと思いますね。
「怒りの獣神」は詞が先の珍しいアニメ主題歌
【清野茂樹】当時子供だった僕には(ガンダムが)全然最初は理解できなかったわけですけど、それはそれは本当にアニメの世界では革命だったと。だけどそっちじゃなくて『ライガー』は、もうわかりやすい方で行きたかった?
【鹿島典夫】ちょっとその前の作品とかが、わかりにくい子供が置いていかれてしまったような作品だったので、「これもう一回戻そうじゃないか」と。テーマ曲もわかりやすい、勢いのある「怒りの獣神」というのも王道の曲なんですよ。
この曲は普通は主題歌って作るのが曲先で作っていくんですよ。曲があって詞を作っていくというやり方だったんですが、敢て詞先でやってもらったんです。先に作詞家の方に詞を作って貰って。
【清野茂樹】「燃やせ燃やせ怒りを燃やせ」を。
【鹿島典夫】それに曲をつけて貰おうというやり方をしたんですね。
【清野茂樹】メロディよりもメッセージ重視という。
【鹿島典夫】メッセージ重視ですね。
【清野茂樹】確かにわかりやすい。
【鹿島典夫】でも、僕は今ライガーさんが、これだけ入場で音楽をずっと使ってくれたときに思うのは「ああこの曲にして良かった」っていつも思っていました。いつも「ああこの曲で、ライガーさんが登場してくる曲で良かった」って思いました。
【清野茂樹】ピッタリですよね。しかも勧善懲悪というのが、プロレスとあっていますよね。やっぱりプロレスは勧善懲悪がいいですよ(笑)。
【鹿島典夫】相手の反則を我慢して我慢してどう打ち破るかという王道ですけど。
後から聞かされた『獣神ライガー』プロレスラー計画
【清野茂樹】最後勝ってこの曲がバアーっと流れて「ライガー!」って言う、これがいいんですよね。ライガーさんの試合は生でご覧になったことは?
【鹿島典夫】僕は1〜2回だけ。それも放送中はとても行く時間がなくて、観に行きました。それも何かというと「放送が終わったらたぶんライガーさんはいなくなるんじゃないか」という気がしていました。
【清野茂樹】ちょっと待ってください。『獣神ライガー』のテレビ放送がはじまるのに、本物のプロレスラーがはじまるというプランはいつ聞かされたんですか?
【鹿島典夫】それは永井さんからです。それも4回目か5回目の打ち合わせをしていたときに「実はプロレスラーが出るんだよね。ライガーが出るんだ」と。だから後追いなんです。あくまで永井さんの発想です。
【清野茂樹】そうだったんですね。で、そこでじゃあ鹿島さんはアニメを作られて、アニメ中はそういうのがあるんだと。で「終わったらライガーは消えるんだな」と思ったら。
【鹿島典夫】ですから「観ておかなければ」って気持ちがあって観に行きました。だからライガーさん会ったことないんですよ僕。
【清野茂樹】リング上は観ていたけれど。生で会ったことがない。
【鹿島典夫】今日もしかしたらあるかなと(笑)。ちょっと楽しみにして来たんです(笑)。
【清野茂樹】ライガーさんはさすがにいませんが、我々にそんな力はないございませんが(笑)。
【鹿島典夫】いえいえ(笑)。
【清野茂樹】「サンダー・ライガー」って名前になってね、途中から。
【鹿島典夫】いわゆる、話が途中で「サンダー・ライガー」というパワーアップしたものが出来たところで、もう一回なったみたいです。
【清野茂樹】これも永井豪先生の意向ですか?
【鹿島典夫】はい、そのプロデュース力というのですかね、それは凄いですね。
【清野茂樹】永井先生のそういう感覚というのは、さすがですね。
【鹿島典夫】凄いと思いました。普通の作品よりは肉弾戦が多かったんですよ。僕らも作っていて組合いだったりするような、要するに離れていて打ってやっつけるだけの戦いではなくて、もう少し組み合うというのは、プロレスというのが後ろにあったからですね。
『空手バカ一代』の撮影で大山倍達の「瓶切り」を目の前で…
【清野茂樹】もともと鹿島さんってアニメ作品デビューって『空手バカ一代』という。何かと格闘技と縁がありますね。
【鹿島典夫】そうですね、ありますね。
【清野茂樹】お若いときですよね。
【鹿島典夫】まだ演出になりたての時の作品がそれでしたね。
【清野茂樹】僕は後追いですけど、観ていましたよ。主題歌のCM行く前のかわいい音楽があったりして。あの時は梶原(一騎)先生とかは、お会いになったりしたんですか?
【鹿島典夫】梶原先生には会えなかったですが、大山倍達さんには会いました。
【清野茂樹】本当ですか! アニメ化にあたって。
【鹿島典夫】それと、ご存知の方はいると思いますが、作品の間に実写が入ったんですよ大山先生の。瓶を切るとか、車の上を飛ぶとか、あの実写が入ったので、あれの撮影に行ったんです。僕はもともと実写のほうをかじっていたので、その演出もするということで一緒に。
【清野茂樹】じゃあ、あのビール瓶を手刀でパーンとやる、あれ鹿島さん現場にいらっしゃったんですか?
【鹿島典夫】現場にいました。
【清野茂樹】えーっ。
【鹿島典夫】でもあんまり秘密は言えないんですけど(笑)。
#ここでゴングが鳴り『カクトウギのテーマ』が流れる。
【清野茂樹】そうですよね、あれ真横にきれいにスパーンと切れましたからね。時間切れでゴングが鳴りましたよ。
鹿島典夫が引退するプロレスラー・獣神サンダー・ライガーへ伝えたい感謝の気持ち
なお2019年9月23日開催のサンライズフェスティバルで『獣神ライガー』の上映会が開催が決定し、トークショーで鹿島と獣神ライガーの初対面が実現。このことを聞かれると鹿島さんは
【鹿島典夫】獣神サンダー・ライガーさんが来られるということで「会いたい」と。それが楽しみで行くみたいな感じがしますけど。
【清野茂樹】会ったらこれ言いたいということあるんですか?
【鹿島典夫】一番やっぱりお礼ですね。「よくここまで長く、頑張ってきていただいたと、凄いな」と。先程も言いましたけど、もしかしたら放送が終わったら無くなるものかもしれないと、密かに思っていたのでこちら側は。
【清野茂樹】リバプールの風にまた戻るかもしれないと思っていた。
【鹿島典夫】ずっと続けてもう30年くらいですか。ずっとリングで戦い続けてやってきてくださったということで、要するに『獣神サンダー・ライガー』というアニメ作品があったことをファンの中で忘れられないで風化しないで残ってたと思うんですね。それに関してはもの凄い感謝していますね。(終わり)
Information
もはや『獣神サンダー・ライガー』といえばプロレスラーで、原作アニメがあったことを知らないプロレスファンも多いのかもしれませんが、鹿島さんから当時の貴重なお話が次々と飛び出しました。
リング上では「獣神サンダー・ライガー最終章」の話題から年末から年明けに向けて多いに盛り上がりそうですが、改めてアニメ版に目を向けてみるのも良いかもしれません。
番組の内容は「真夜中のハーリー&レイス」の公式ページからポッドキャストでも聴けます。
延長線では鹿島典夫さんが携わるアニメの世界を深掘り『ダーティーペア』と『クラッシャージョウ』も登場します。ぜひ聴いてみてください。
(放送から約2ヶ月限定公開 2019年11月頃まで)