映画『イエスタデイ』日本での公開を前に「もしもビートルズがいなかったら」をテーマに放送されたJ-WAVEの「J-WAVE SELECTION THE WORLD WITHOUT THE BEATLES」。NONA REEVES・西寺郷太がビートルズが音楽やレコーディング業界に与えた影響について解説した。
【西寺郷太】僕は中1の夏休みに、ちょっとウチの両親が大喧嘩しまして。で仲直りしまして「お前にはツラい思いをさせた、世界のどこにでも連れていってやる」と中1の夏休みに「リバプールとアビイ・ロードに連れていけ」と。
アビイ・ロード・スタジオに入って、中を見て、見ようとしたら英兵さんというかセキュリティに止められたんですけど「オマエ中に入っていいよ」と。
…で「シーツ」ってやって、英兵さんが中に入れてくれて、アビイ・ロード・スタジオの中に入れてくれて「ここまでだったらいいよ」と言ってビートルズのアビイ・ロード・スタジオを見たのが。「絶対オレ、ミュージシャンになって、レコーディングするような人間になる」って決めたのが中1の夏ですね。
【サッシャ】それ凄くないですか。
【西寺郷太】元々はマイケル・ジャクソンの『スリラー』にポール・マッカートニーが「The Girls Is Mine」って曲で入ってたり「Say Say Say」ってやっていて、そこから「ポール・マッカートニーがやってたバンドってビートルズっていうんだ」ってからのスタートなので…。
【サッシャ】そうですよね(西寺さんは)マイケル・ジャクソンのイメージが強いですからね。
【西寺郷太】最初小4の時にそれで、その後からどんどん後追い、深掘りしていったというかビートルズを知ったというか。
【サッシャ】その西寺さん、ビートルズが音楽業界を変えた革新的な出来事について、西寺さんもミュージシャンですから、ミュージシャン的な観点からもお話を窺っていきたいと思いますけど、ビートルズのイノベーションがなかったら、その後の音楽は当然ながら、今と違っていたかもしれない。
【西寺郷太】そうでしょうね。
【サッシャ】「レコーディングのし方もひょっとしたら全然違ったかもしれない」という仮説をもって、現代のレコーディングの現場で活躍する音楽プロデューサーのこの方からコメントを頂いているので、まずはそれを元にすすめてみましょう。
レコーディング技術の進化にシンクロしたビートルズ
【亀田誠治】ビートルズがいなかったら僕はミュージシャンになっていません。音楽家・亀田誠治も存在していません。という大前提を持ちましてプロデューサー目線からビートルズの魅力についてお話していきたいと思います。 ビートルズは大きく3つの事件を音楽業界、そしてレコーディング業界に起したと思っています。一つはレコーディングの技術の進化と見事にシンクロしたというのが大きくて、ビートルズがデビューして62年、解散する70年までの間に録音するテープが、はじめは2chステレオでしか録れなかった、それがビートルズがデビューして間もなく4chになるということは、音が少しづつ重ねられるようになった。で後期にはなんと、レコーダーが8トラックまで録れるようになったんですね。 これはどういうことかというと、好きなだけ音を重ねられていく。要するにアーティストが思い描いた、サウンドを自由自在につくり上げていくことができるようになった。これね、電話でいうところの固定電話がガラケーになって、そしてスマホになったみたいな、それぐらいの急速な進化がたったの数年の間でレコーディング技術の進化が起こって、そこにビートルズは自分たちのサウンドを乗っけていった、そっから広げていったといのがまず一つ目です。 |
【サッシャ】亀田さんからの一つ目のコメント「レコーディング技術の進化とビートルズ」。ちなみに今NONA REEVESがレコーディングする時、最大何トラックくらい使いますか?
【西寺郷太】僕らはね、めちゃ使うんですよ(笑)。140とか。あのPro Toolsという機械でだいたいやります。
【サッシャ】当時は2からはじまって、4、8となったと。
【西寺郷太】そうです、そうです。
【サッシャ】これが4倍になっている訳ですけど、今の100から比べると随分少ないですけど、今は無限大に使えますからね。
【西寺郷太】そうなんですよ、ビートルズの場合は多分、最初は本当にドラムとかも1個のマイク、幾つかのマイクを部屋に立てて。敷居を作って、ちょっと混ざらないようにしながら、いっぺんに録ってしかなかったんですよね、最初は。
【サッシャ】ライヴ・レコーディングみたいな感じで。
【西寺郷太】ライヴ・レコーディングで、本当に出来るだけハモってみたいな。ただビートルズの場合は結局若い4人が、自分で作曲もするし、自分たちでアレンジもするし、でとんでもない経済効果をEMIというレコード会社だったり、レコード業界にもたらしたということで、それまでもっとレコーディングって、今でいうお医者さんが、MRIを使ったり、メスを人の体に入れるみたいな白衣を着てやっていた時代なのでレコーディングを。
【サッシャ】へえ。
【西寺郷太】レコーディングは本当に技術者の仕事で、普通の人、一般の人がそれに触れるというのは難しい時代で、だからレコーディングするアーティストも、ちょっと脅されているというか「時間ないよ」みたいな…。
「そんなことできるわけないだろ」という中でやってたのが、あまりにもビートルズが自由にやりたいという若者たちで、「いやいや、この会社の売上げオレたちが作ってんだろ」って「機会が壊れるかもしれないので」「いや、壊れたオレ買うよ」みたいな。ノリがビートルズの強さですよね。
「だったら逆にまわしてみてよテープ」とか、逆再生とか「壊れるかもしれない…」「いやまた買うんで」って言われたら反論できない。「夜中もやってよ朝までお金払うから」みたいな(笑)。
「だってこの会社めちゃくちゃオレたち儲けてるじゃん」って。そう思うと「言えないな」みたいなのがビートルズが積み重ねたことが後のロックバンドたちが「オレたちも、オレたちも」ってなったというのは、必ずあるんで。
その巨大な経済効果によって自分の都合で、レコーディング業界すらもコントロールできるようになった。とあと、トラック数が増えていったのも「ちょっとトラック数足りなくない?」みたいな話で、「もっと増えたらいいのに…お金払うから」という(笑)。
【サッシャ】(笑)。
エフェクターの開発など機材の発展にも寄与
【西寺郷太】あと何かその、特にジョンなんかは、面倒臭かったというかボーカルをダブルトラックって2回重ねて、一種独特な効果が出るんですけど、それが2回やるのが面倒くさいということで、「アーティフィシャル・ダブルトラック」って2重に重なって聴こえるエフェクターを、お願いしてエンジニアに作ってもらったりとか。
「ジョン兄さん無茶言うけど、あの人面倒ぐさがりだし…ビートルズすごいからもうわかりました」って作った、お金かかったけど払ってくれたみたいな(笑)。そういうので機材もね、発展したこともあると思うんですよね。
【サッシャ】もしビートルズがいなかったらレコーディングはどうなっていたと思いますか?
【西寺郷太】4人組で色々なことを言ってきたというのが、社会の構造が変わった一つの理由だったと思うので。ビートルズじゃなかったらちょっと遅れていたかもしれないですね。
【サッシャ】昔はソングライターって別にいて、だいたいカバーとかが殆どだったんですもんね。
【西寺郷太】ストーンズなんかも、ビートルズがやったのを見て「俺らでも曲作れるやんか」と。スティーヴィー・ワンダーなんかもそうですよね、ビートルズの曲をカバーしたりもしてますし。
もちろんビートルズは黒人音楽、モータウンとかソウルとか、チャック・ベリーとか、憧れていましたけどアメリカに、そのあたりはやっぱり、分業体制じゃなくしたということを逆にアメリカにも持ち込んだという。
憧れたアメリカに結果教える形になったというか…というのがビートルズの凄い所ですよね。(つづく)