神格化されるジョアン・ジルベルトの伝説
インターFM「Daisy Holiday!」で7月に死去したジョアン・ジルベルトの追悼特集。話題は最近リリースした来日公演の映像作品『ライブ・イン・トーキョー』や上演中の映画『ジョアン・ジルベルトを探して』などについて。
ジョアン・ジルベルトとスタン・ゲッツの『ゲッツ/ジルベルト』を聴いたのが中学生のとき(伊藤ゴロー)
【細野晴臣】ゴローくんはいつからジルベルトを聴いてるの?
【伊藤ゴロー】えーとね、ウチの父親が『ゲッツ/ジルベルト』のレコードを持っていて、それを初めて聴いたのが中学生くらいの頃ですかね。
【細野晴臣】ギターはいつから?
【伊藤ゴロー】ギターもその頃から、まあポロポロやっていたんですけども。さすがに「ボサノヴァやってみよう」と中学生は、思わないですよね。
【細野晴臣】そのうち演りだしたんだ、じゃあ。
【伊藤ゴロー】そうですね。「いつかはやってみたいな」と思いつつも、なかなかチャンスが無くてというか…。
【細野晴臣】ブラジルに留学に行ったりはしなかった?
【伊藤ゴロー】それはないですよ。まあ演りはじめてから、レコーディングとかで行く感じで、ひたすら部屋で修行していました。
【細野晴臣】あのギターはどうやって覚えていった?
【伊藤ゴロー】もうレコード聴いてひたすら反復練習というか…。
【細野晴臣】やっぱりジルベルトを…。
【伊藤ゴロー】はい。
【細野晴臣】そうか、やっぱり聴いて指使いとか判らないところがあるでしょ?(笑)。
【伊藤ゴロー】そう、判らないですよね。実際、判らないので「こんな感じかな…」と思いながら(笑)。
指使いも判る来日公演の映像ジョアン・ジルベルト「ライブ・イン・トーキョー」
【細野晴臣】それで「ライブ・イン・トーキョー」がDVDが出て、良く見えてるワケでしょ? 指が。
【伊藤ゴロー】あれはね本当、左手も右手も全部見えてるというか、色々確認できて素晴らしいですね。
【細野晴臣】それは素晴らしい僕も観たい。あの、ギターはどこのを使っているのですか?
【伊藤ゴロー】ギターは「このギターじゃなくちゃ駄目」みたいな、そんなのは無いんですけど、今は日本の越前くんというギターの作家さんがいて、彼のギターを使っていますね。
【細野晴臣】ジルベルトは何を使っているんですか?
【伊藤ゴロー】ジョアンはブラジルのギターですね。ディ・ジョルジオというブランドですけど。そのギターをずっと使ってます。
【細野晴臣】会ったことある?
【伊藤ゴロー】え?ジョアンですか。無いですよね。なかなか会えない…。
映画『ジョアン・ジルベルトを探して』なかなか会えないモヤモヤが…(細野晴臣)
【細野晴臣】そういう映画をこないだ観に行ったんだよ(笑)。
【伊藤ゴロー】僕も観ましたけど。
【細野晴臣】観たでしょ?、パンフレット書いてたから。
【伊藤ゴロー】なかなか会えないもんですよね。
【細野晴臣】あの映画は観てモヤモヤしてきてやっぱり。
【伊藤ゴロー】そうですよね。
【細野晴臣】本当に会えないのかね。やっぱりね。
【伊藤ゴロー】やっぱ本当に会えないんですよ。色々なブラジルのミュージシャンが出て。
【細野晴臣】まわりの人はいっぱい出てきて。
【伊藤ゴロー】彼らは行くと会えるんですよ。僕、何度か行ってますけど、行くと必ず。
【細野晴臣】普通会えるよね。
【伊藤ゴロー】普通会えますよ。特にジョアンの二人目の奥さん、ミウシャ。彼女は行くと必ずあそこのカフェで話をして、あそこのカフェに必ずいるんですよ。
【細野晴臣】本当に。
【伊藤ゴロー】行くと会えるという。
【細野晴臣】で、あの映画では、やっぱりそういうシーンがあってドイツ人だっけ、会いに行って。その元奥さんのところに行ったら電話がかかってきたね。
【伊藤ゴロー】そうですね(笑)。
【細野晴臣】ジョアン・ジルベルトから。で声は聞こえるんだけど、それでも取り次いでくれないのね。何で?
【伊藤ゴロー】何かあの調子で行くと会えそうな感じですもんね。
【細野晴臣】ね、不思議だった。やっぱり神さまになっちゃうねそれじゃ。
【伊藤ゴロー】そうですね。なんで、ミウシャがよく行ってるカフェの見えるところにジョアンは住んでるんですよ。うん、でも降りてこないんですよ。
【細野晴臣】人が嫌いなの? そういうワケでもない?
【伊藤ゴロー】どうなんでしょうかね。
【細野晴臣】謎だらけなんで色々訊きたかったんだけどね。何か小野リサさんは電話で話したってこの前聞いたけど。
【伊藤ゴロー】そうそう、何か話したって言ってましたね。
【細野晴臣】ひょっとすると会って一緒にやるって実現したかもしれないんだろうね。
【伊藤ゴロー】どうでしょうね。うん、うん、なかなか電話で話すっていうのもね。
【細野晴臣】でもジョアン・ジルベルトは電話好きって聞いたけど。
【伊藤ゴロー】うんうん、一日中電話、そうみたいですよ。途中でギター弾きだして、ちょっと受話器に向かって。歌ってくれるらしい。
【細野晴臣】そうか、不思議な人だなあ。なんか全然他の人と違うよね。ギターの練習をもの凄い熱心にやっていたんだろうね。あのお風呂場で。
【伊藤ゴロー】ねえ多分…相当引き込って練習したんだと思いますけどね。
ニューヨークで録音した名作「ホワイトアルバム」
【細野晴臣】何だろう…サンバが基になっているけど、あの静けさというのはジョアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビンの作ったものだなと思っていたんだよね。
【伊藤ゴロー】いや、でもそうですよね。
【細野晴臣】ボサノヴァってひと言で言うけど、本当は彼らのものだよね(笑)。日本ではバブル期にボサノヴァが流行ったらしくて(笑)、カフェ・ボサノヴァ。
【伊藤ゴロー】うんうん。
【細野晴臣】若い女の娘とかが「いいわよね」みたいなね(笑)。「イパネマの娘」がいいわよねとか、風が吹くのよね、みたいな話は聞いたけど。今はそんなに景気が良くないからね、どうなんだろうなと。
【伊藤ゴロー】でも細野さん、凄くあってるというのは変ですけど、いいと思いますよ。言葉というよりも、さっきのスキャットの曲みたいなのは、何か凄くピッタリじゃないかと。
【細野晴臣】まあスキャットなら。いや、でも勘弁して(笑)。難しい。じゃあ曲、そのホワイト・アルバムってのはどういう状況で作られたんですっけ?
【伊藤ゴロー】これはですね。アメリカでレコーディングして、ウォルター・カルロス…ウェンディ・カルロスがプロデュースとかエンジニアを彼が録って。
【細野晴臣】ええ、意外それは知らなかった。
【伊藤ゴロー】1973年とかそれくらいですよね。
【細野晴臣】ウォルター・カルロス、ウェンディ・カルロスに女になっちゃった人だ「スウィッチト・オン・バッハ」作った人ね。
【伊藤ゴロー】彼が録ったんですよね。余り資料は無いんですけど、スタジオに夕方…。
【細野晴臣】地下というのは聞いた。
【伊藤ゴロー】スタジオに夕方というか夜、おもむろにやって来て(笑)。
【細野晴臣】NYだったかな。
【伊藤ゴロー】ですね。
【細野晴臣】このアルバムが一番不思議というか。ジョアン・ジルベルトの真髄というかね。
【伊藤ゴロー】本当にそうですね。
【細野晴臣】その中から「うわ凄いこの人、息継ぎがない、肺活量が凄い」と思った曲が「Trolley Song」。これに入ってる?
【伊藤ゴロー】「Trolley Song」は『彼女はカリオカ』あれもメキシコで録ったアルバムですね。
【細野晴臣】そうだ、あれも名盤だよね。じゃあそこから「TROLLEY SONG」聴いていい?
【細野晴臣】ジョアン・ジルベルトってアメリカのこういう音楽演るよね。時々ね。
【伊藤ゴロー】やりますね。
【細野晴臣】英語で歌ってるの無かったっけ?
【伊藤ゴロー】ありますね。何か可愛らしい英語で歌ってますね。
【細野晴臣】そうだったね。いやいや、話が尽きないからすぐ時間が経っちゃう。あと1曲になっちゃうんですけど。どうしようかな…。じゃあゴローくんとライブで演ったカエルの歌ね「O Sapo」。ではこれを聴きながらまた来週やります。(つづく)